大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江地方裁判所 昭和37年(わ)70号 判決 1966年2月22日

被告人 本池馨 外三名

主文

被告人本池馨を罰金二〇、〇〇〇円に、同森脇茂美、同浜田政雄、同安田逸を各罰金五、〇〇〇円に、それぞれ処する。

各被告人において、その罰金を完納することができないときは、いずれも金五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部、被告人四名の連帯負担とする。

理由

(本件犯行に至るまでの経過)

境港市大正町所在の境港海陸運送株式会社(以上単に海陸運送または会社という)は、港湾運送、通運、倉庫、自動車運送等を業務内容とする会社であつて、なかんずく、港湾運送については、島根県美保関町の横田、駒喰、下宇部尾、万原など五ケ所の海面に、同社の借用する専用貯木場を有し、境港に輸入されたラワン材等の木材が、商社より各業者に売り渡されるに際し、右木材の筏組み、貯木場への曳航、貯木保管をしたり、寸検、植検等をへた後の各業者の元への搬出をしたりするもので、同地方において、右事業を独占的に行つていたものであり、全日本港湾労働組合日本海地方本部境港支部(以下単に組合という)は、前記海陸運送の従業員からなる労働組合であるが、従来、海陸運送が個人企業的色彩が強かつたこともあつて、労使間の激しい対立はみられなかつたところ、昭和三六年一〇月ごろ、会社の経営者が代つたころから、会社側と組合側との対立を深め、当時、従業員の賃金水準が、前記日本海地方本部の他支部に比して数千円低く、拘束労働時間も一時間長かつたことなどもあつて、同年一二月、会社側との越年資金交渉に際し、組合結成以来最初のストライキを行つたのであるが、翌昭和三七年二月五日、春季斗争を行うに当り、会社に対し、平均五、〇〇〇円の賃上げを中心とする要求を出し、以後、同年四月八日まで、会社側と六回の団体交渉を重ねたものの、折合いがつかず、この間、組合は、三月二七日に二四時間ストライキを行い、四月八日からは、同月一二日まで時限ストライキをつづけ、更に、同月一三日からは、同月二四日、交渉が妥結するまで、無期限ストライキに突入した。

当時、組合は、一二〇余名の組合員からなり、被告人本池馨は、同組合執行委員長として、右争議に際し、組合の全般的指導に当り、被告人森脇茂実、同浜田政雄、同安田逸は、いずれも同組合員として、右争議に参加していたものである。

なお、前記ストライキを行うに際し、三月二六日ごろおよび四月七日ごろ、会社および組合の協議により、貯木場や倉庫における保安のため、組合側より貯木場に三、四名、倉庫に一名宛の保安要員を出すこととし、保安要員の給料は会社で負担し、貯木場の見廻りには、会社所有の帆船岡田丸(約一二トン)を使用することを決め、右協議にもとづき、組合は、ストライキ期間中、組合の指名で保安要員を出し、保安要員は、前記駒喰、下宇部尾、万原等の貯木場を右岡田丸で巡回し、貯木したラワン材等の監視や保管に従事していたが、四月一六日ごろからは、荷主側に、原材料の枯渇のため、貯木した木材の搬出の気配がみえ、そのため、組合側は、ピケツテイング用の見張り要員を数名ふやして、岡田丸に乗船させたりしていた。

ところで、海陸運送にとつて、ラワン材等の荷主としては日新林業株式会社(以下単に日新という)および大同木材株式会社等があり、そのうち、日新は海陸運送の最大の顧客であり、その姉妹会社である湖北ベニヤ株式会社(以下単に湖北ベニヤという)および新日本合板株式会社(以下単に新日本合板という)等のための荷受人でもあつたが、右日新は、同年三月ごろ、自社専用の貯木場を設置しようとして、同年四月一日付で、美保関町字下宇部尾区内の舟隠および塩焼の入江を地元民より借り入れるとともに、三月三一日境港入港のラワン材四二四本を、伊藤忠商事株式会社より買受け、これを海陸運送に依頼して、前記舟隠貯木場(以下単に舟隠湾という)に搬入させ、同所に管理、保管させていたが、四月七日ごろ、右ラワン材のうち、植検不合格材七三本を除く三五一本を、右舟隠湾において、海陸運送より引渡を受けていたところ、前記海陛運送における会社、組合間の争議の影響で、原木の手持が不足してきたため、舟隠湾のラワン材を、自社の手によつて筏組みし、これを境港市および松江市方面に曳航して、自社および湖北ベニヤ、新日本合板に運搬しようと計画し、組合に対する刺戟をさけるため、同月一七日より翌一八日にかけ、夜半、臨時に雇入れた人夫約一〇名を使用して、右舟隠湾において、自社所有のラワン材を、縦筏二組(二組とも五本のラワン材をそれぞれ縦にして横列にしたものを一組とし、それを四組縦につないだもので、合計二〇本からなり、全長約四〇メートル、巾約四メートルあり、これを一本のワイヤーで筏結びにし、ワイヤーがラワン材と接する部分にはU字型の釘(長さ約六・五センチメートル、巾約三センチメートル)が打つてあり、ワイヤーが互に交錯する各九ケ所の要所には「シヤコ」と称する止め金(長さ約七センチメートル、巾約四・五センメートルでU字状をしたもの)でワイヤーをとめてある)および横筏一組(ラワン材を一本一本横向きにしてつないだもので、約二四本からなり、全長約二八メートルあり、一本のワイヤーをかけて、それを各材に、前記U字型の釘でとめたもの)に筏組みさせるとともに、右筏三組を、同社の雇入れた機帆船によつて、翌一九日早朝に、搬出曳航しようとした。

(罪となるべき事実)

組合は、前記舟隠湾が日新の専用貯木場であり、同湾内のラワン材の大部分が、四月七日ごろ、同所において、海陸運送より日新に引渡されたことについては、会社側から正式の通知を受けておらず、その後も、保安要員が同湾の見廻りをしていたことなどから、一部組合員を除き、同湾のラワン材については、なお海陸運送に保管責任があると誤信していたところ、同月一八日、日中、前記岡田丸に乗船した被告人浜田ほか数名の保安要員および見張要員が同湾附近に赴いた際、前記のごとく、同湾入口附近に、同湾内のラワン材の一部が、縦筏二組、横筏一組に筏組みされ、曳航可能な状態にあるのを発見したため、右保安要員らは、同日午後五時半ごろ、境港市大正町所在の組合事務所に帰着し、被告人本池ら組合幹部に対し、同湾のラワン材が筏組みされて曳航される気配がある旨を報告した。

第一被告人本池は、右報告を受けるや、当時、争議の支援にきていた前記日本海地方本部委員長仲村茂らと、その対策を協議したが、会社側が、ラワン材の搬出を計つたのではないかと判断し、このまま搬出曳航を見送れば、会社、組合間の力関係の均衡が破れ、ストライキの効果も著しく減殺されるものと考え、組合員に指示して、前記筏を曳航できぬよう損壊してでもその搬出を阻止しようと決意し、同日午後六時すぎごろ、前記事務所において、解散後同事務所に残つていた被告人森脇、同浜田、同安田らに対し、直接にまたは組合員を通じ、前記貯木場において筏組みがなされ、曳き出される気配があるから、右筏を曳き出せないようにしてくるよう指示し、右被告人らに対し、暗に、右筏を曳航できない状態に損壊する犯意を生ぜしめてこれを教唆し、もつて、右教唆にもとづき、前記被告人三名らをして、後記判示第二のごとく、右筏を曳航できないように損壊せしめ、

第二被告人森脇、同浜田、同安田は、被告人本池の前記指示にもとづき、右筏を損壊してでもその曳航を阻止しようと考え、同日午後六時すぎごろ、藪内良茂ほか数名の組合員とともに、右事務所附近に碇泊中の前記岡田丸に乗船し、被告人森脇が船長となり、同浜田は機関長となつて舟隠湾に赴いたが、同湾に至るまでに、被告人らは暗に意思を通じて共謀のうえ、同日午後七時ごろ、同湾附近の海面につくや、他の組合員とともに直ちに岡田丸より日新所有の前記筏の上に降り、被告人浜田は、釘抜きで、横筏の釘を十数本抜き、また、縦筏のシヤコを素手で数個はずし、藪内良茂は、釘抜きで横筏の釘数本を抜き、被告人森脇および同安田は、縦筏のシヤコを素手でそれぞれ数個はずし、右により、横筏一組は、これをほとんどばらばらに解体し、縦筏二組のうち、一組は九個のシヤコを全部、他の一組は九個のシヤコのうち五個をはずしとり、右筏三組を、いずれも曳航できないようにして、その効用を失わしめ、もつて共同してこれを損壊し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人らの主張に対する判断)

一  弁護人らは、本件につき、被告人本池の他の被告人らに対する指示の内容は、「説得によつて筏の搬出を阻止せよ。」というものであつて、筏の損壊まで指示したものではなく、したがつて、同被告人について「教唆」は成立しないと主張するので、この点について判断する。

被告人浜田の検察官に対する供述調書中には、同被告人は、当夜、被告人本池から、「筏を曳き出せないように壊してきてくれ。」と頼まれた旨の記載があり、右によれば、被告人本池は、同浜田に対して明示的に筏の損壊を指示したようにもみえるが、しかし、他の被告人に関しては、これと同様の証拠は見当らず、被告人本池が、当夜、右のごとく明示的に筏の損壊を指示したかは必ずしも明らかではない。

しかし、前掲証拠によれば、本件争議中、組合員の活動についての具体的指示は、常に委員長である被告人本池が行つていたこと、本件当日、日中、組合の保安要員および見張り要員らが、舟隠湾において、前記筏組みの事実を発見した際、その場で何ら特別の行動に出ることなく、右保安要員らは、一たん組合事務所に戻り、右筏組みの事実を組合幹部に報告していること、被告人本池は、当日、夕方、保安要員らから右報告を受けるや、会社側がラワン材の搬出を計つたものと考えたが、筏の搬出者、曳航の時期について会社に問合わせ、又は会社と話合うなどの措置を講ずることなく、搬出を見送れば、会社との力の均衡が破られると判断し、夜間に拘らず、直接に、あるいは組合員荒木寅雄を通じ、他の被告人らに対し、現場に赴くよう指示したこと、その際、少くとも「筏を曳き出せないようにしてきてくれ。」という指示は与えていること、そして、他の被告人らは、右指示にもとづいて、岡田丸に乗船して現場に赴く際、現場に到着するまで、船中において、特に本件に関する話合いはしていないこと、現場において、被告人らは、右筏の曳航船が来ているかどうかを見張つたり、その来航を待つて説得に出るような態度をみせることなく、直ちに筏の上に降り、その損壊行為に着手していること、実行待為に及んだ被告人らは、右行為は被告人本池ら執行部の指示にもとづくものと考えて行動していたこと、当夜、本件行為終了後、被告人浜田らが組合事務所に引きあげてきて、被告人本池に対し、右筏の釘やシヤコを抜いて曳き出せないようにしてきた旨を報告した際、同被告人は、右報告をきいて、別段意外なことをしたと思つていなかつたこと、被告人本池は、昭和二三年に会社に就職し、以後、港湾運送の業務にも従事したことがあつて、筏組み等について、当時知識がなかつたとはみられないこと、被告人森脇、同浜田は、筏組みの業務には詳しかつたことなどが認められ、関係証拠中、右認定に反する部分は信用できない。以上の事実を総合して考えれば、被告人本池は、当夜、本件筏の搬出を説得によつて阻止することは特に考慮せず、筏を損壊する場合をも含む曳航の阻止を決意し、他の被告人らに対し、筏を曳航できない状態に損壊してくることを暗に指示し、右指示にもとづいて、他の被告人らが本件行為に及んだことが認められ、被告人本池の「教唆」の事実は優に認定することができる。よつて、この点に関する弁護人らの主張は採用することができない。

二  弁護人らは、暴力行為等処罰に関する法律(昭和三九年法律第一一四号による改正前のもの、以下同じ)第一条第一項は、暴力団体等が、不法な団結の威力を背景として暴力行為をなしたときに対処する法規として制定されたものであつて、本件被告人らの行為のごとく、労働組合の争議行為に際し、通常予想される団体行動として行われたものについては適用がないものであり、また器物毀棄罪としても、同罪が親告罪であるにもかかわらず、その告訴は存在しないから、本件公訴は棄却されるべきであると主張する。

しかし、右の点については、最高裁判所の判例(昭和二九年四月七日判決、刑集八巻四号四一五頁参照)が述べているごとく、同条項は、労働者の団結権、団体行動権の正当な行使自体をも処罰の対象としているのではなく、右団結権、団体行動権といえども、一定の限界を有するところから、右権利の正当な行使とはいえない違法な暴行、脅迫、器物毀棄等が行われた場合には、その適用があるとするものであり、当裁判所の見解も右と同一である。したがつて、被告人らの行為が、労働組合としての争議行為である故をもつて、直ちに暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に該当しないということはできず、しかも、被告人らの本件行為は、後記のごとく、労働組合の正当な争議行為とみることはできず、同条項にいう数人共同して器物毀棄を行つたものと認められるから、同条項の適用のあることは当然であり、且同条項の適用については告訴を要しないから以上に関する弁護人らの主張は採用することができない。

三  つぎに、弁護人らは、前記ストライキ中、舟隠湾貯木のラワン材について、海陸運送は、日新のために保管責任を負つており、組合は、保安要員により、海陸運送のために直接に右ラワン材の監視保管に当つていたから、組合において、右ラワン材が何者かによつて無断で曳き出されようとするのを防止するため行つた本件行為は、右保管業務達成のための必要かつ相当な行為であつて、被告人らの行為は犯意を欠くか、または、正当な業務行為、もしくは正当防衛行為であるから罪とならず、かりに、同湾のラワン材が、海陸運送から日新に引渡しずみであつたとしても、被告人らは、同材について、海陸運送に保管の責任ないし権限があると信じ、盗難等無断搬出を防止するために本件行為に及んだものであるから、右は事実の錯誤であつて犯意を阻却し、被告人らは無罪であると主張する。

しかし、関係証拠によれば、判示認定のごとく、日新は、昭和三七年四月一日付で、前記舟隠湾を地元民から借り受けたこと、同月七日ごろ、同湾貯木のラワン材三五一本を、同所において海陸運送より引渡しを受けていたこと、したがつて、本件当時、右ラワン材は、海陸運送より日新に引渡しずみであつて、海陸運送は、同材について管理保管の権限ないし責任はなかつたことが認められる。それ故、海陸運送および組合に、同湾のラワン材について管理保管の権限ないし責任があつたことを前提とする弁護人らの主張部分は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも採用することができない。

もつとも、関係証拠によれば、組合は、一部組合員を除き、舟隠湾が日新専用のものであること、同湾のラワン材の大部分が日新に引渡しずみであること等について、会社から通知を受けておらず、本件当時保安要員は、同湾のラワン材も監視の対象としていたとみられることなどから、組合は、同湾のラワン材について、なお、海陸運送に保管の責任があると誤信していたことが認められ、右の点からすると、被告人らが会社の機関として、同湾のラワン材について海陸運送に保管責任があると信じ、その保管業務の範囲内の行為として、右ラワン材の盗難等無断搬出を防止する目的で本件行為に及んだものとすれば、弁護人主張のとおり、違法性阻却事由たる事実の錯誤として犯意を阻却する場合も考えられないではない。

しかし、この点に関し関係証拠によれば、被告人本池ら組合幹部は、本件当日、夕方、保安要員らから舟隠湾附近に筏が組まれて搬出の気配がある旨の報告を受けて協議した際、最初は、既に暗くなつているので、事故があつては困るからそのまま見逃そうという意見が強かつたが、右筏は、曳航資格のない機帆船で曳き出すのではないかという話が出て、それでは違法な行為であるとし、会社側がこれを曳航するのを見逃せば、会社、組合間の力関係の均衡が失われるものと考え、被告人本池において、本件現場に赴くよう他の被告人らに指示したこと、被告人森脇、同浜田らは本件当時、本件筏組みは、海陸運送が他の者を雇つて行つたものであり、会社側のストライキ破り行為であると考えて行動していたことが認められ、以上の事実によれば、被告人らは、ストライキ中の会社対組合の力関係を考えて会社側の筏の搬出を阻止しようとして本件行為に及んだもので、単に、盗難等の無断搬出を防止するために本件行為を行つたものとみることはできない。関係証拠中、前記認定に反する部分はにわかに信用できない。以上、被告人らの本件行為は、たとえ、被告人らが前記ラワン材について保管責任ありと信じていたとしても、前記のごとく、保管業務行為として行つたものとはみられないから、その余の点について判断するまでもなく、弁護人らの主張は理由がなく採用することができない。

四  最後に弁護人らは、本件筏組みは争議中に、免許のない土本業者足立享が日新より請負つて行つたもので、港湾運送事業法に違反し、そうでないとしても同人が事業として日新に人夫を紹介したもので、職業安定法、労働基準法等に違反し、また、日新は曳航資格のない機帆船を雇つて、右筏の曳航を計画していたものであるから、日新の右行為は違法なものであり、右は、組合の争議権に対し、違法かつ急迫した侵害行為であつて、これを防止するために被告人らはピケツテイングの一方法として、本件行為を行つたものであるから、被告人らの行為は、労働組合の正当な争議行為であり、違法な行為とはいえず、被告人らは無罪であると主張する。そこで以下この点について判断する。

関係証拠によれば、本件筏組みは、日新が、土木業足立組の組長足立享を介して、人夫を臨時に雇入れ、日新の指揮で行つたものであり、しかも、判示認定のごとく、当時、舟隠湾が日新専用のものであり、筏組みしたラワン材が日新所有のものであつたことを考え合わせると、日新の前記行為をもつて、直ちに違法な行為であるということはできない。もつとも、関係証拠によれば、日新は、右筏を池田高義に依頼して、同人所有の機帆船によつて曳航せしめようと計画していたが、右機帆船は、当時、所定の曳航資格がなかつたことが認められる。しかし、いずれにしても、日新は本件争議においては当事者ではなく、第三者たる立場にあり、自社専用の貯木場にある自社所有のラワン材を搬出することは、それ自体は同社の経済的活動として、自出になしうべきものであり、それが一部違法な行為を伴うものであつても、これをもつて、直ちに、組合の争議権に対する違法な侵害行為であるということはできない。もちろん組合が、前記筏組みによる搬出は本件争議に重大な影響を与えるものとして、その曳航を中止するよう、説得等の方法により日新に働きかけることは許されることであり、特に、前記のように被告人らは、舟隠湾のラワン材は海陸運送が管理しており、本件筏は会社側が曳き出そうとしていると誤信していたとみられるから、その場合右筏の搬出を阻止する行為に出ることも、正当な争議行為とみられるかぎり許されてしかるべきである。

ところで、労働争議に際し、労働組合の争議目的が正当なものであつたとしても、使用者側の業務行為を阻止するためとられた労働者側のピケツテイング等の手段方法が、諸般の具体的事情からみて、正当な範囲を逸脱したものと認められる場合、右行為は、労働組合法第一条第二項にいう正当な争議行為ということはできない。これを本件についてみると、関係証拠によれば、本件当日、日中、被告人浜田を含む組合の保安要員および見張り要員が舟隠湾において、前記筏組みの事実を最初に発見した際、右筏には、日新の姉妹会社である湖北ベニヤ勤務の先久博美および同じく新日本合板勤務の福島行輝が乗つており、保安要員らは、右両名と言葉を交しているが、右両名に対し、特に、筏の搬出者、搬出の時期等を確かめたり、争議の実情を訴えて搬出阻止の説得的行為に出ているとはみられないこと、当日、夕方、組合幹部は、保安要員らの報告を受けた際、筏組みしたもの、その曳航の時期等について会社に問合わせ、あるいは会社と話し合うなどの措置を講ずることなく、被告人本池において、他の被告人らに指示して舟隠湾に赴かせていること、また、右被告人らは、現場に到着した際、右筏の曳航船が附近に来ているかどうかを見張つたり、曳航船の来航を待つてその説得に出るような態度をみせることなく、現場に到着するや、直ちに筏の上に降り、その損壊に着手していることが認められ、そして筏の損壊は、判示認定のごとく横筏一組は大部分の釘を抜きとつて、これをばらばらに解体し、縦筏二組については、一組はシヤコを九個全部、他の一組は九個中五個をはずし、同部分にとめてあつたワイヤーを解き、右筏三組とも曳航できない状態においたものであり、以上の事実からすれば、被告人らの行為は、他にとるべき手段方法が残されているにかかわらず、これを無視し、直接本件のごとき実力行動に及んだもので、正当な争議権の範囲を逸脱したものであり、違法な行為であるといわなければならない。もつとも、証拠によると、港湾運送労働者の争議の場合、他人の施設で他人の貨物を扱うような場合が多く、そのためピケツテイングの強化が特に必要であること、当時、組合が、曳航資格のない機帆船による搬出行為を予測し、これを違法な行為であると考えていたこと、舟隠湾の湾口には「かき」筏があり、本件の場合夜間、海上における説得活動が困難であつたことなどの諸事情が認められるが、しかし、右事実をもつてしても、前記諸事実に照らし、被告人らの行為をして正当化するものではなく、結局、被告人らの本件行為は、正当な争議行為ということはできず、この点に関する弁護人らの主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人本池の判示第一の行為は、刑法第六一条第一項、昭和三九年法律第一一四号附則第二項により同法による改正前の暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、刑法第二六一条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、被告人森脇、同浜田、同安田の判示第二の行為は、前記改正前の暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項、刑法第二六一条、罰金等臨時措置法第二条、第三条にそれぞれ該当するところ、被告人らの本件行為は、前記のごとく、争議行為としても、その正当な範囲を逸脱して実力行動に及んだもので、その刑事責任は、あくまで追及されなければならないが、反面、被告人らは、舟隠湾のラワン材が、当時すでに日新に引渡しずみであつたことを知らず、なお海陸運送が管理しているものと考えていたとみられること、夜間、海上におけるピケツテイングが困難な状況にあつたとみられること、被告人らの筏損壊の行為は、横筏一組はこれをほとんどばらばらに解体しているが、縦筏二組は、シヤコを抜いただけで釘は抜いておらず、曳航は不可能にしたものの、筏の原形を解体するまでには至つていないこと、被告人浜田らは、現場を引きあげる際、損壊した筏の湾外への流出を防止する措置をとつていること、会社側は、本件前、舟隠湾が日新専用の貯木場であること等について、一部組合員に通知したのみで、組合に対し正式の通知をしておらず、争議中の使用者側の態度として、フエアでない面がみられること、日新は、本件捜査の当初行つた告訴とり下げており、処罰を求める意思がみられないこと、被告人本池には道路交通取締法違反罪の前科があるのみで、他の被告人には前科がないこと等の諸事情を考慮し、所定刑中、いずれも罰金刑を選択したりえ、被告人本池を罰金二〇、〇〇〇円に、同森脇、同浜田および同安田を各罰金五、〇〇〇円にそれぞれ処し、各被告人において、その罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により、いずれも金五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により、全部被告人四名に連帯して負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 三好昇 谷清次 林五平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例